自然を見ると歴史の物語が浮かび上がる

街の風景には、かつて人々が自然とともに暮らしてきた記憶が残されています。こうした暮らしの歴史が刻まれた自然の風景は、観光の、そしてまちづくりの重要な資源の一つです。

都心の中に残る「まちの記憶」

東京の下町を歩くとプラタナスの木が多くあることに気づきます。これは、関東大震災の名残です。枝葉が大きく茂り、成長が早いことから火災の延焼を防ぐ効果を期待して植えられました。また、台東区・谷中には「ヘビ道」と呼ばれる道路があり、かつて川筋に染物屋があった愛染川の上に造られたため大きく蛇行しています。このようにまちの記憶をとどめている自然は至るところにあり、まちの歴史や人々の自然との関わり方とともに物語られることで、観光まちづくりの資源となります。自然もじっくり見れば、まちの歩みに触れることができるのです。

プラタナスの街路樹は関東大震災を契機に急に増えた。

自然と合理的に生きた昔の人たち

日本各地で山の風景を見ることはできますが、よく見ると山にもいろんな表情があります。例えば杉の山林では、杉を建物の構造材として使用するか、お酒や醤油の醸造に使用する杉樽にするかによって杉の育て方が変わるため、地域によって杉林の風景は異なります。また、川についても、川幅や川の性格によって橋の架け方や護岸の造り方が変わります。現代では経済的、機能的な合理性が優先されて橋が架けられていますが、昔は自然の力が強く、技術的に難しかったため、人々は自然と合理的に付き合う暮らし方をしていました。そのような自然と人との暮らしの記憶が、今も各地の風景として残っています。

風景は、地域の人々と杉林との関わり方を物語る。

自然を観察することで、地域の資源を掘り起こすことができる

【教員プロフィール】
下村 彰男 教授

造園学、風景計画、自然資源管理、観光・レクリエーション計画

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