長年続いた「珈琲問題」とは

地域住民が主体となって地域の魅力を守り育て、次世代へ継承する取り組みが各地で行われています。住む人にとっても訪れる人にとっても魅力的な地域デザインについて、事例をもとに考えてみましょう。

「地域らしさ」のあくなき追求

長野県・妻籠宿では、1968年から今日まで約半世紀にわたり、住民が主体となって古くから続く町並みと豊かな自然、静寂や素朴さといった「妻籠宿らしさ」を守り、後世に引き継ぐことに取り組んでいます。その真剣さを物語る一つが住民間で長年の論争になった「珈琲問題」、すなわち、妻籠宿で珈琲を販売するか否かという問題でした。要望があるからといって珈琲を販売するようになると家屋の改造や俗化が進み、独特の宿場町の佇まいを維持できないのではないか、外部の事業者が参入しやすくなり「妻籠宿らしさ」が失われるのではないか、条件付きで認めてもよいのではないかなど、珈琲販売ひとつとっても、時代の変化を踏まえながら「地域らしさ」を守るための議論と工夫を続けてきました。

宿場町の佇まいに徹底的にこだわった住民主体の議論と工夫の蓄積が、国内外から多くの人々を惹きつけている。

自分たちの町を自分たちで守り続ける

珈琲問題でこれだけの議論が行われた妻籠宿には、地域づくりの羅針盤としての「妻籠宿を守る住民憲章」があります。これは、観光客が急増した1971年に、地域の土地や建物が外部資本の手にわたってしまうことを防ぎ、住民の生活を守りながら町並みを保存し、地域に恩恵をもたらす観光を進めていくために、住民が定めたものです。近年の空き家問題も、この憲章を尊重しながら妻籠宿らしい活用の仕方をひとつひとつ模索中です。

後継者不在で空き家になった家屋も、住民組織が仲介・調整することで適切に修理が行われ、地域の草木で染めた手仕事の展示・販売空間として再生した。

住む人の議論と工夫の蓄積が、独特の町並みを守っている

【教員プロフィール】
石山 千代 准教授

地域デザイン、観光資源の保存・活用、観光計画、観光まちづくり

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