地域の宝を光らせ、観せるために、
地域を見つめる力を育てる。

「地域の魅力を掘り起こし、地域に貢献できる人を育てたい」と西村幸夫教授は考える。「観光」と「まちづくり」という従来は異なる方向性で考えられていた領域が一つになり、今、求められているのは、地域を見つめ、地域を動かすことのできる人だ。そのためには、どのような視点が求められるのか。「観光まちづくり」という言葉からひも解いていく。

観光学部(仮称)学部長(就任予定)
西村 幸夫教授

「観光」と「まちづくり」が重なる一つの研究領域として

みなさんがこれから学ぶ「観光まちづくり」とは何か、ということから、まずは考えてみましょう。「観光」と「まちづくり」はこれまで、全く違った方向性を持った視点でした。しかし、この20年ほどの間に、「観光」と「まちづくり」の互いが重なり合うところから地域を見つめ、地域の環境を資源として活かしながら、地域経済の活性化へとつなげていく「観光まちづくり」という新しい一つの視点で考えられるようになってきました。

地域に目を向ければ、実にいろいろな宝があります。いわゆる観光地の歴史的建造物のようなハード面だけに光を当てるのではなく、その地域の人にとっては当たり前に営まれてきた祭礼や、文化、歴史、自然資源といった、まだ磨かれていない宝を掘り起こし、観光資源としての価値を見いだして、磨き上げていくことによって、地域の経済を活性化させていくことが、「観光」という言葉の本来の意味である「国(地域)の光を観る」ということにもつながり、「まちづくり」をしていくことになるものです。

観光学部観光まちづくり学科が目指しているのは、このような「観光まちづくり」の視点を持った「地域を見つめ、地域を動かす」ことのできる人材の育成です。國學院大學は、神道の文化の中心的なものを支える神職を養成する使命をもった大学です。つまり、地域の歴史文化を担う人材を養成してきた大学であると言えます。卒業生のなかには、全国各地の神社の宮司になっている方も多くいらっしゃいますが、地域における祭礼は神事であり、そうした神事を司る人々が減り、神輿を担ぐ人が少なくなり、地域の力が弱まってきているといった声が聞かれます。そうした現実に直面している昨今、地域の活性化のためにも、卒業生ともつながりを大切にしながら、大学として地域に貢献していく人材を育てていくことが、私たちの果たすべき役割であると捉えています。

当事者意識を持って地域の魅力を掘り起こす

自分の生まれ育った地元が好きで、地元のために働きたい。もしくは、自分が好きな地域のために、地域で生きていきたい。私は、そのようにして“選ばれる”地域を「自分たちがつくっていくんだ」という感覚を持った人を育てたいと考えています。卒業後は必ずしも、観光関連産業に就かなくてもよく、地元企業や公共団体といった立場から地域の未来を考え、地域経済に貢献することもできるでしょう。

そのためには、教室での学びだけにとどまらず、実際に地域に出かけていって、地域を見つめ、地域の歴史や文化など、実際に体験を通じた学びを取り入れて、地域から学ぶことも大切にしたいと考えています。観光とはある意味では経済活動ですが、それが地域に害を及ぼすようでは意味がありません。地域にとってもメリットがあり、それが経済的にもよい効果をもたらすということを考えられる視点を育てていくことが必要です。ですから、その地域を旅行商品として捉えるのではなく、その地域には住んでいる人がいて、地域で頑張っている人がいる。そこへ観光客が訪れることによって、地域の経済が回っていくという、当事者意識を持って地域を見つめる姿勢を身につけていってほしいと思います。

たとえば、その地域の特産である杉を使って何が作れるかと考えます。実際に自分が手を動かして作るのではなくて、パブリックスペースに設置するベンチを、杉で作ってみてはどうだろうかと提案するなどです。アーティストになる必要はなく、アーティストの心を理解できるということは大切な感覚です。そういった感覚を持って提案をしたり、アーティストに依頼したりすることができれば、よいコラボレーションが生まれます。ほかにも、建築でも同じ事が言えます。こんな町並みにしたいという提案を、建築家にも伝わる言葉で説明できるなど建築的な素養を持っているということは大事なことだと思います。

複眼的なものの見方で地域を見つめる人に

そのような「提案力」や「課題発見・解決力」「コミュニケーション能力」を磨いていくため、観光学部観光まちづくり学科では、演習形式の授業を必修とします。「観光まちづくり演習」では、10数人のグループで協働して調査をしたり、提案を考えたりして、実際に現場に提案ができるような実践的な学修に取り組みます。実際の現場では、個人の能力だけで地域を変えていくことはできません。そこには、いろいろな人同士が協働して、それぞれの得意分野で力を発揮して、融合して一つのものが生み出されていくのです。

観光学部観光まちづくり学科は、文系と理系の垣根をなくした学びが特長となります。観光まちづくりの現場では、文系理系の境目はないからです。地域と向き合い、地元の方々が見過ごしている地域の強みを探っていくなかでは、自分の専門外だからと見ずにいては、地域の魅力を掘り起こすことなどできません。私自身はもともと、「都市計画」を専門としていますが、「まちづくり」を考えるということは、まちをどう変えていくのか、どのように良くしていくのかと、具体的に提案することが求められます。現場では多様な分野、立場、考え方の人々と議論し、ともに「観光まちづくり」に取り組んできました。この学部の教員には、農学の専門家もいれば、建築物や文化財の専門家、観光事業や観光地経営の専門家など、さまざまな分野の専門家がそろっています。それぞれが地域で実践を積んできた人ばかりです。「地域を見つめる」ということは、地域の文化的なものを見る、自然的なものを見る、コミュニティや社会的なものを見るといった3つのものの見方があります。だからこそ、みなさんには、幅広い領域を統合的に学んで、文系的な「物事を見つめて解釈する」感覚と、理系的な「物事を動かす」という感覚の両方を兼ね備えた、複眼的なものの見方ができる人として、地域に貢献してほしいと願っています。

観光学部(仮称)学部長(就任予定)
西村 幸夫教授
1952年生まれ。博士(工学)。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修了。東京大学副学長、マサチューセッツ工科大学客員研究員、コロンビア大学客員研究員、フランス社会科学高等研究院客員教授、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)副会長などを歴任。専門は、都市保全計画、景観計画、歴史まちづくり、歴史的環境保全。